外注先から値上げの相談が来たら|協議の記録をAIで1枚に残す
この記事では、取適法への対応|中小企業が外注先への発注書と支払期日で守ることの「価格の相談の記録を残す」を、実際に組んで続ける方法を説明します。
一言でいうと、外注先から値上げの相談が来たら、相談の中身と根拠の資料を受け取り、社長が協議の日を決める。協議のメモや録音から、AIが「誰が、いつ、何を求め、自社がどう答え、何を決めたか」を1枚に下書きする。社長が中身を確かめて外注先にも送り、食い違いを直す。発注書と同じ場所に残し、決まった単価を次の発注書に反映するという形です。
値上げの相談には、応じて説明したことを残す
政府広報オンラインと中部経済産業局の案内によると、2026年1月1日に施行された中小受託取引適正化法(取適法)では、発注する側が、受注する側から求められた価格の協議に応じず、一方的に代金を決めることが禁止されました。対象になるかは、取引の種類と、両社の資本金・従業員数で決まります。
また、労働新聞社の記事と経団連の資料によると、内閣官房と公正取引委員会が2023年11月に出した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」は、受注する側が最低賃金の上昇率や春の賃上げの妥結額などの公表資料を根拠に使い、発注する側はそれを合理的な根拠として尊重するよう求めています。
つまり、外注先から値上げの相談が来たら、話を聞き、根拠を見て、自社の考えを説明し、何を決めたかを残すことが大切です。値上げを受け入れるかどうかは、協議して決めることです。協議に応じて説明したことが記録として残っていれば、後から確かめられます。自社の取引が取適法の対象になるかは、公正取引委員会や中小企業庁の案内で確かめてください。2026年10月時点の情報です。
今は、相談を電話で受けて、そのまま終わっている
小さな会社では、外注先から「来月から少し上げさせてほしい」と電話で言われ、社長が「考えておく」と答えたまま、うやむやになることがあります。あるいは、その場で「今は無理」と断り、記録が何も残らないこともあります。
どちらも、外注先との関係を傷つけ、後から「協議に応じてもらえなかった」と受け取られるおそれがあります。外注先が値上げを言い出すのは、コストが上がって困っているからです。きちんと話を聞き、説明することは、良い外注先に続けて仕事を受けてもらうためにも大切です。
相談を受け、AIが下書きし、外注先と合わせて残す
1 受ける(人)。 担当者が、相談の中身(どの品目や作業を、いつから、いくらにしたいか)と、根拠の資料(材料の値上がりの通知、最低賃金の推移など)を受け取ります。電話で相談が来たら、「資料をメールで送ってください」とお願いします。社長が協議の日を決めます。
2 下書きする(AI)。 協議のメモや録音の書き起こしと、受け取った資料をAIに渡し、記録を1枚に下書きしてもらいます。
3 合わせる(人)。 社長が中身を確かめ、外注先にも送って、食い違いがあれば直します。
4 残す(人)。 確かめた記録を、その外注先の発注書と同じ場所に保存します。単価を変えることが決まったら、次の発注書に反映します。
記録の型と、AIへの頼み方はこうなる
記録の型(見本):
- 日付、場所(電話、来社、オンライン)、出席者
- 外注先の求め(品目、今の単価、求める単価、いつから)
- 外注先が示した根拠(資料の名前)
- 自社の説明(受け入れる、一部受け入れる、受け入れない、とその理由)
- 決まったこと(新しい単価、始める日、次に話す日)
- 宿題(誰が、いつまでに、何をするか)
AIに渡す指示(見本。内容は架空です):
下は、外注先A社との値上げの協議のメモと、A社から受け取った資料の一覧です。上の記録の型で1枚に下書きしてください。メモにないことは書かず、決まっていないことは「未定」と書いてください。金額は資料とメモの数字をそのまま使い、計算はしないでください。どちらかを責める書き方はしないでください。
返ってくる記録(見本の一部):
外注先の求め
- 部品Bの加工の単価を、今の1個450円から480円に。来月の発注から
自社の説明
- 一部受け入れる。材料の値上がりの分は受け入れ、労務費の分は次の四半期にもう一度話す
決まったこと
- 来月の発注から1個465円。3か月後にもう一度協議する
根拠の資料は、AIに要点をまとめさせてから読む
外注先から届く根拠の資料は、材料の値上がりの通知、最低賃金の推移、電気代の請求書の写しなど、形がばらばらです。協議の前に、資料をAIに渡して要点をまとめさせておくと、社長が短い時間で読めます。
- 何が、いつから、どれだけ上がったか:資料に書いてある数字だけを並べさせる
- 求める単価との関係:上がった費用が、求める値上げのどの部分に当たるかを、資料から読める範囲で書かせる
- 資料から読めないこと:協議で外注先に聞くことの一覧にする
まとめの数字は、必ず元の資料と照らしてから使います。資料から読めないことを、AIに推測で補わせないようにします。協議の場では、この一覧を見ながら外注先に質問すると、話が具体的になります。
記録の型をスキルにし、決める判断はAIの外に置く
記録の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「記録の型」「根拠の資料の書き方(資料の名前と日付)」「書いてはいけないこと(メモにない約束、計算、相手を責める言い方)」をスキルにします。
決める判断は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、値上げを受け入れるかを社長が決めること、新しい単価を計算の表で確かめること、記録を外注先にも送って食い違いを直すこと、記録を発注書と同じ場所に残すことがそれに当たります。
社長の仕事は、話を聞き、理由を説明し、決めたことを伝えること
社長がすることは、次の3つです。
- 協議の日を決める。 相談が来たら、なるべく早く話す日を決めます
- 理由を説明する。 受け入れる場合も、受け入れない場合も、理由を説明します。受け入れない場合は、何があれば考え直せるかも伝えます
- 決めたことを伝える。 記録を外注先に送り、食い違いがないかを確かめます
経営への効果は、外注先との関係を守り、後から確かめられること
- 外注先との関係を守る。 きちんと話を聞いて説明すれば、受け入れられない場合でも、関係を続けやすくなります
- 後から確かめられる。 何を求められ、どう答え、何を決めたかが残るので、担当者が替わっても経緯が分かります
- 単価の管理がそろう。 決まった単価を発注書に反映するので、古い単価で発注する間違いを防げます
費用はAIの利用料が1件数円
| 費用 | 見込み |
|---|---|
| AIの利用料 | 協議のメモと資料の一覧(入力6千トークン・出力1,500トークンほど)から記録の下書きが、Claude Sonnet 5.5の料金(入力100万トークンあたり2ドル、出力10ドル、1ドル150円で計算)で1件4円ほど |
| 法人向けプラン | チャットで使うなら1人あたり月数千円 |
| 社長の時間 | 協議の時間と、記録を確かめる10分ほど |
必要な人は2役で、決めるのは社長
- 担当者:相談と資料を受け取り、協議のメモを残し、AIに下書きさせ、保存する
- 社長:協議の日を決め、協議し、記録を確かめ、受け入れるかを決める
1か月で記録の型が固まり、半年で外注先ごとの経緯が並ぶ見込み
- 1週目:記録の型を作り、担当者に、電話で相談が来たら資料を頼むよう伝える
- 次の相談から:協議のメモをAIで記録にし、外注先に送る
- 半年後:外注先ごとの記録が並び、どの外注先といつ何を話したかが一覧で分かる
記録を断るための道具にすると失敗する
よくある失敗は次の3つです。
- 記録を断るための道具にする。 記録を残すのは、協議に応じたことと、決めたことを確かめるためです。記録があるからといって、相談を形だけで済ませてよいわけではありません
- 外注先に送らない。 自社だけで記録を持っていると、外注先の受け取り方と食い違うことがあります。必ず送って確かめます
- AIに単価を決めさせる。 新しい単価や受け入れる割合は、社長が決めます。AIには記録の下書きだけを頼みます
自社が値上げをお願いする側に回るときの考え方は、取引先との値上げ交渉|受け入れてもらえる根拠の資料の作り方で説明しています。
まとめ
- 2026年1月施行の取適法では、協議に応じない一方的な代金の決定が禁止された。国の指針は、公表資料を根拠とした相談を合理的な根拠として尊重するよう求めている
- 値上げの相談が来たら、中身と根拠の資料を受け取り、協議の日を決め、理由を説明する
- 協議のメモからAIが「誰が、いつ、何を求め、どう答え、何を決めたか」を1枚に下書きし、社長が確かめて外注先にも送る
- 記録は発注書と同じ場所に残し、決まった単価を次の発注書に反映する
- 記録は断るための道具ではなく、協議に応じて決めたことを確かめるためのもの