業務への組み込み例

整備の見積に写真で納得してもらう。整備士のメモからAIが説明を下書き

この記事で変わる経営指標

この記事では、整備士が足りなくても車を回す。整備工場の事務をAIに任せる方法の「見積の説明は、写真とメモからAIが下書きする」を、仕組みとして作る方法を説明します。

一言でいうと、整備士が点検で見つけた不具合の写真と一言のメモを送る。金額と部品名は見積のソフトから入れる。AIが、整備士の判断どおりに「今回替えたほうがよいもの」と「次回まで様子を見てよいもの」を分けた、お客様向けの説明を下書きする。フロントが確かめて、写真と一緒に送るという形です。電話で口頭で伝えていた見積の説明を、写真と文で納得してもらう形に変えます。

今は見積の説明が、電話の口頭で終わっている

親の記事で触れたとおり、自動車整備・修理工の2024年度の有効求人倍率は5.09倍で、全職種の平均の1.14倍を大きく上回っています(共同通信)。国土交通省の講演を伝えた業界紙でも、2022年度末の自動車整備士の有効求人倍率は4.72倍とされています。整備士は簡単には増えません。

ところが多くの小さな整備工場では、見積の説明が次のように行われています。

  1. 整備士が点検で不具合を見つけ、フロントに口頭で伝える
  2. フロントが見積を作り、お客様に電話する
  3. 「ブレーキパッドが残り3ミリで」と説明するが、お客様には今すぐ替えるべきかが分からない
  4. 分からないので「今回はいいです」と断られる。あるいは何度も電話でやりとりする

整備士が手を止めてフロントに説明し、フロントが電話で説明し、それでも伝わらない。人が足りない工場ほど、この往復が重くなります。

写真を撮り、見積と照らし、AIが書き、フロントが送る

整備士が点検で見つけた不具合の写真と一言のメモを送り、金額と部品名は見積のソフトから入れる。AIが「今回替えたほうがよいもの」と「次回まで様子を見てよいもの」を分けたお客様向けの説明を下書きし、フロントが確かめて写真と一緒に送る
整備士が点検で見つけた不具合の写真と一言のメモを送り、金額と部品名は見積のソフトから入れる。AIが「今回替えたほうがよいもの」と「次回まで様子を見てよいもの」を分けたお客様向けの説明を下書きし、フロントが確かめて写真と一緒に送る

仕組みは4つの段でできています。

1. 撮る:整備士が不具合の写真と一言のメモを送る。 点検の場で、整備士がスマートフォンで不具合の写真を撮り、短いメモを添えて送ります。メモには、整備士の判断を一言で入れます。

  • どの部分か(「フロントのブレーキパッド」)
  • 状態(「残り3ミリ」)
  • 整備士の判断(「今回交換」「次回の点検まで様子見」)と、その理由(「次の車検までもたない」)

2. 確かめる:金額と部品名は見積のソフトから入れる。 ここは決まりと表の仕事です。

  • 部品名、工賃、金額は、見積のソフトに入っている数字をそのまま使います
  • メモの部品と、見積の明細が合っているかを照らします。メモにあって見積にないもの、見積にあってメモにないものに印をつけます
  • 車の登録番号やお客様の名前は、AIに渡す前に受付の番号に置き換えます

3. 下書きする:AIがお客様向けの説明を書く。 AIが、写真とメモから、お客様に送る説明文を下書きします。整備士が「今回交換」とした項目と「様子見」とした項目を分け、それぞれ、どんな状態で、替えないとどうなりやすいかを、専門用語を言い換えて書きます。金額は見積のソフトの数字を決まった欄に差し込み、AIには書かせません。

4. 送る:フロントが確かめて、写真と一緒に送る。 フロントが下書きを読み、整備士のメモと合っているかを確かめます。写真と説明と見積を一緒に、お客様のメールや連絡用のアプリに送ります。分かりにくいところがあれば、お客様から電話をもらって説明します。

説明の型と工場の言葉をスキルにし、金額と判断はAIの外で持つ

この仕組みが毎回同じ質で回るかどうかは、AIに渡す決まりと、AIの外の仕組みで決まります。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

説明の型と工場の言葉を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、次のものをスキルにします。

  • 説明の型:今回交換するもの、様子を見てよいもの、次に確かめる時期の順番と長さ
  • 言い換えの一覧:「パッド」は「ブレーキを効かせるための部品」、「ローター」は「パッドが押し当たる円盤」のように、工場でよく使う言葉の言い換え
  • 工場の言葉:名乗り方、お客様への呼びかけ、署名
  • 書いてはいけないこと:メモにない判断、「すぐ壊れます」のような不安をあおる言い方、確かめていない原因、値引きの約束

金額と、整備の判断は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、金額を見積のソフトから入れること、メモと見積の明細を照らすこと、名前を番号に置き換えること、下書きにメモにない判断が書かれていないかを確かめることがそれに当たります。何を今回替えるかを、AIに決めさせることはしません。

整備士の仕事は、写真と一言を残すことになる

仕組みが入ると、見積の説明は次のように変わります(想定です)。

今まで 仕組みが入ったあと
整備士 手を止めてフロントに口頭で伝える 写真を撮って一言送る
フロント 電話で説明する。何度もかけ直す 下書きを確かめて写真と送る
お客様 言葉だけで判断する 写真と文を見て、急ぐかどうかが分かる
金額 電話で伝え、聞き間違いが起きる 見積のソフトの数字が文と一緒に届く
記録 何を勧めて断られたかが残らない 送った説明が残り、次の点検で使える

経営への効果は、整備士がピットにいる時間と、納得して頼まれる整備

効果は、前提を置いて計算します。仮に、見積の説明に電話と整備士とのやりとりで10分かかっていたものが、下書きを確かめて送る3分になれば、1件7分が浮きます。説明が要る見積が月100件なら月約12時間、1時間あたりの人件費を仮に2,500円として月約2万9,000円分です。

ただ、この仕組みの価値は時間だけではありません。整備士が手を止めてフロントに説明する回数が減れば、その時間を整備に使えます。人が増えない工場では、それがそのまま受けられる台数になります。お客様は写真で状態を見て、納得して整備を頼めます。断られた整備も「次回まで様子見」として記録に残るので、次の点検や車検の案内で「前回お伝えしたパッドの件」と触れられます。車検の案内の作り方は車検のお客様をほかの工場に取られない。前回の整備に触れた案内をAIで出す仕組みで説明しています。

費用は作る費用が中心で、AIの利用料は月330円ほど

作る順番と、かかる日数

  1. 説明の型と、言い換えの一覧、書いてはいけないことを決める(工場:社長と整備士の長、半日)。お客様に分かりやすいと言われた説明を見本に集めます。ここがいちばん大事です
  2. 見積のソフトから、部品名と金額を書き出せるようにする(工場:事務、半日)
  3. 写真とメモを受け取り、見積と照らし、名前を置き換える仕組みを作る(作る人、1人日)
  4. AIの下書き、金額の差し込み、フロントへの届け方を作る(作る人、1人日)
  5. 1か月、整備士1人分で試して直す(作る人、0.5人日)

作る費用

作る費用 = 作る人の日数(人日)× 1日あたりの単価

上の手順3〜5で、作る側の目安は合計2.5人日です。

毎月の費用

費用 中身 想定の工場での目安
AIの利用料 1件の説明の下書きごとにかかる 月100件で330円ほど(下の計算)
見積のソフト・メール すでに使っているもの 追加0円の想定
保守 型と言い換えの一覧の更新 月1時間

AIの利用料は、読ませた量と書かせた量で決まります。2026年10月7日時点のAnthropic社のClaude(Sonnet 5.5)の公式料金は、読ませる量100万トークン(AIが文字を数える単位)あたり2ドル、書かせる量100万トークンあたり10ドルです。写真は、Anthropic社の説明では、幅×高さ÷750がトークン数の目安で、幅1,000×高さ750の写真なら約1,000トークンです。1件あたり写真3枚とメモとスキルで6,000トークンを読ませ、1,000トークンを書かせると見積もると、0.022ドル、1ドル150円で約3.3円です。月100件で330円ほどです。

何か月で取り戻せるか

取り戻すまでの月数 = 作る費用 ÷(月に浮く金額 − 毎月の費用)

仮に作る費用が15万円、毎月の費用(利用料と保守の時間)を3,000円とすると、月約2万9,000円分が浮く工場でおよそ6か月です。整備士が1〜2人の工場なら、説明の型と言い換えの一覧だけ作り、フロントが会社で契約したAIのチャットに写真とメモを貼って下書きするやり方で十分です。

必要な人は3役で、判断するのは整備士

役 誰が すること 時間
写真を撮る人 整備士 不具合の写真を撮り、判断を一言で送る 1件1分
確かめて送る人 フロント メモと見積と下書きを照らし、写真と送る 1件3分
作る人 社内の詳しい人か、外の作り手 受け取り、照合、下書き、届け方を作る 最初の2.5人日

いちばん大事なのは、整備士の判断がメモに入っていることです。「今回交換」か「様子見」かは、整備士が決めます。

1か月で型がそろい、半年で頼まれる割合が分かる見込み

どこまでいけるかは、写真とメモがどれだけそろうかと、型がどれだけ育つかで決まります。目安は次のとおりです。

時期 見込み
最初の1か月 整備士1人分で試す。フロントが直したところを型と言い換えの一覧に足す
3か月 工場の全員に広がる。説明の書き方がそろう
半年 見積を出した整備が頼まれた割合と、電話の数を、仕組みの前と比べられる

効果を確かめるには、次の3つを導入の前と後で比べます。

  • 1件の説明にかかる時間:フロントと整備士の時間を記録します
  • 勧めた整備が頼まれた割合:見積を出した項目のうち、頼まれた項目の数を数えます
  • 「様子見」の次回の受け入れ:前回「様子見」とした項目が、次の点検で頼まれた割合を見ます

判断や不安をあおる言葉をAIに書かせると失敗する

作る側から見て、よくある失敗は次の4つです。

  • メモにない判断をAIが書く。 写真を見たAIが「ほかにも摩耗が見られます」と足すことがあります。整備の判断は整備士だけが行い、メモにない判断が下書きに入っていないかを照らします
  • 不安をあおる言い方になる。 「今すぐ替えないと危険です」のような言い方は、お客様の信頼を損ねます。書いてはいけない言い方をスキルに入れます
  • 金額をAIに書かせる。 見積のソフトから入れます。AIは数字を写し間違えることがあります
  • 写真に写った登録番号や顔をそのまま送る。 お客様に送る写真でも、ほかの車の登録番号や人が写っていないかを確かめます

お客様と車の情報は、大事な個人の情報です。会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランで扱い、社内の決まりに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。

まとめ

  • 整備士が、点検で見つけた不具合の写真と、判断を入れた一言のメモを送る
  • 金額と部品名は見積のソフトから入れ、メモと明細を照らす。名前は番号に置き換えてから渡す
  • AIが、整備士の判断どおりに「今回交換」と「様子見」を分けたお客様向けの説明を下書きし、フロントが確かめて写真と一緒に送る
  • 費用は作る費用が中心で、作る側の目安は2.5人日。AIの利用料は月330円ほど。小さな工場は型とチャットで十分
  • 効果は、1件の説明にかかる時間、勧めた整備が頼まれた割合、様子見の次回の受け入れで確かめる

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