小さな学習塾は保護者への報告で選ばれる。AIで講師の事務を減らす方法
この記事で変わる経営指標
この記事では、生徒が数十人から百数十人ほどの小さな学習塾や個別指導塾で、AIをどこに使うと効くかを説明します。一言でいうと、保護者への毎月の学習報告、問い合わせと体験授業への返事、面談の準備、小テストと類題づくりの4つをAIの下書きに任せ、点数や出欠のような数字は表と計算で持ち、講師は確かめて直すという話です。
AIの価値は、授業をすることではありません。講師が授業のあとに抱えている書く仕事を減らし、その時間を生徒と保護者に向き合う時間に戻すことです。保護者が塾を続けるかどうかを決めるとき、子どもの様子がきちんと伝わっているかは大きな材料になります。
経営への効果は、続ける生徒が増え、講師の事務が減ること
4つの業務と、それぞれが経営の何に効くかを先にまとめます。
| 業務 | AIで変わること | 経営効果 | 始めやすさ |
|---|---|---|---|
| 保護者への学習報告 | 講師のメモと小テストの点から、生徒ごとの報告をAIが下書きする | 売上(続ける生徒が増える) | 始めやすい |
| 問い合わせと体験授業の返事 | 問い合わせへの返事と、体験授業のあとのお礼をAIが下書きする | 売上(入塾につながる) | 始めやすい |
| 面談の準備 | 成績の推移は計算で出し、話す順番と資料の下書きをAIが作る | 業務の無駄(教室長の準備が減る) | 少し準備が要る |
| 小テストと類題づくり | 単元と難しさを指定して、類題の下書きをAIが作る | 人手不足(講師の準備の時間が減る) | 始めやすい |
| 成績の予測・志望校の判定 | 合否の見込みをAIに出させる | 準備と責任が大きい | 後回しでいい |
効果の大きさは、次の式で考えます。
月に戻る時間 = 業務ごとの(今の時間 − AIを使ったあとの時間)の合計
仮に、生徒80人、講師5人ほどの塾で、月に次の量があるとします。
| 業務 | 月の量 | 今 | AIを使ったあと | 浮く時間 |
|---|---|---|---|---|
| 保護者への学習報告 | 80人 | 1人15分(20時間) | 1人5分(約6.7時間) | 約13.3時間 |
| 問い合わせと体験授業の返事 | 40件 | 1件10分(約6.7時間) | 1件3分(2時間) | 約4.7時間 |
| 面談の準備 | 27人(年3回の面談を月にならす) | 1人30分(13.5時間) | 1人10分(4.5時間) | 9時間 |
| 小テストと類題づくり | 20セット | 1セット40分(約13.3時間) | 1セット15分(5時間) | 約8.3時間 |
合わせて、月に約35時間です。その多くは、教室長と講師が授業の前後に使っている時間です。
ただ、大きいのは時間よりも、保護者への報告が毎月きちんと届くことです。保護者は、子どもが塾でどう過ごし、何ができるようになったかを知りたがっています。報告が届かない月が続くと、成績が上がっていても「本当に通わせる意味があるのか」と考え始めます。
子どもの数は減り続け、生徒一人ひとりの重みが増している
厚生労働省の人口動態統計(概数)によると、2025年に生まれた日本人の子どもは67万1,236人で過去最少、10年続けて減りました。合計特殊出生率は1.14で、過去最低です(共同通信の報道でも同じ数字が報じられています)。
塾に通う年齢の子どもの数は、この先も減っていきます。新しい生徒を集める競争は厳しくなり、今いる生徒に続けてもらうことと、兄弟や友人に紹介してもらうことの重みが増します。そのどちらにも効くのが、保護者との連絡です。
一方で、小さな塾では、教室長が授業、生徒の管理、保護者の対応、講師の採用と指導、教材の準備をすべて受け持っていることが多く、保護者への報告は後回しになりがちです。
保護者への学習報告は、講師のメモと点数からAIが下書きする
AIに頼むこと。 生徒ごとに、その月の授業で講師が書いた一言のメモ(「関数のグラフが読めるようになった」「宿題の提出が遅れがち」)と、小テストの点数の推移(表計算で出したもの)を渡し、保護者向けの報告を下書きしてもらいます。できるようになったこと、つまずいていること、家庭でお願いしたいことの3つに分けます。 人がすること。 担当の講師が、事実と言い回しを確かめて直し、教室長が目を通して送ります。 何が変わるか。 1人15分かかっていた報告が、確かめて直す5分になり、毎月全員に届けられます。
大事なのは、点数や出欠をAIに書かせないことです。点数の推移は表計算で出して報告に差し込み、AIには「その数字をもとにした言葉」だけを書かせます。また、講師のメモにないことは書かせません。「最近やる気が出てきました」と書いて、実際にはそうでなかったら、保護者の信用を失います。毎月全員分の下書きが並ぶ仕組みの作り方と費用は、塾の保護者への毎月の報告を全員に届ける。講師のメモと点数から下書きする仕組みで説明しています。
問い合わせと体験授業の返事は、その日のうちに出す
AIに頼むこと。 ホームページやメールの問い合わせに対して、塾の料金表と時間割、よくある質問をもとに返事を下書きしてもらいます。体験授業のあとには、講師のメモ(その日に何をして、生徒がどんな様子だったか)から、保護者へのお礼と、入塾を考えるときの材料を下書きしてもらいます。 人がすること。 料金と空いている時間を確かめて送ります。 何が変わるか。 問い合わせへの返事が早くなり、体験授業の様子が具体的に伝わります。
問い合わせへの返事を速くする考え方は、問い合わせに1時間以内に返す会社が商談を取る。AIで返事を速くする方法で説明しています。
面談の準備は、成績を計算で出しAIが話す順番を書く
AIに頼むこと。 面談の前に、生徒ごとの成績の推移(表計算で出した点数と順位の変化)、講師のメモ、前回の面談の記録を渡し、面談で話す順番と、保護者に見せる資料の下書きを作ってもらいます。 人がすること。 教室長が資料を確かめ、志望校や進路についての話は自分で組み立てます。 何が変わるか。 1人30分かかっていた準備が10分になり、面談の前に講師から話を聞く時間が取れます。
面談のあとの記録は、話した内容を教室長が一言ずつメモし、AIに整えてもらうと、次の面談の材料になります。
小テストと類題は、AIが下書きし、講師が解いて確かめる
AIに頼むこと。 単元と難しさ、問題の数を指定して、小テストや類題の下書きを作ってもらいます。生徒がつまずいた問題を渡して、同じ考え方を使う類題を作らせることもできます。 人がすること。 講師が自分で解いて、答えと解き方が正しいかを確かめます。 何が変わるか。 1セット40分かかっていた準備が、確かめる15分になります。
AIは、計算問題の答えや、図形の条件を間違えることがあります。講師が解かずに生徒に出すことはしないと決めておきます。教科書や問題集の問題をそのまま写して配るのも避けます。
成績の予測と志望校の判定は後回しでいい
AIで何でもできそうに見えても、次の2つは後回しをすすめます。
- 成績の予測をAIに出させる。 生徒の将来の点数をAIに予測させても、根拠がはっきりせず、外れたときに保護者への説明ができません
- 志望校の合否の判定をAIに任せる。 進路の相談は、保護者と生徒の人生に関わります。判定は、模試の結果と教室長の経験で行い、AIは資料をそろえる役にとどめます
まずは、間違えても講師がすぐに気づけて直せる、書く仕事から始めます。
塾の書き方をスキルにし、点数と出欠はAIの外で持つ
ここまでの使い方は、1回ずつ頼んだ場合です。講師のみんなが毎月使うなら、もう一段の工夫で、誰が使っても同じ質の報告が出るようにします。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。
塾の言葉と報告の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。学習塾なら、「保護者への報告の型(できるようになったこと、つまずき、家庭へのお願い)」「使わない言葉(成績を保証するような言い方、他の生徒との比較)」「塾の料金と時間割」「保護者に喜ばれた報告の見本」をスキルにしておきます。
点数と出欠と料金は、AIの外で持つ。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。学習塾では、点数の推移と順位を表計算で出して報告に差し込むこと、出欠を記録から数えること、問い合わせの返事の料金を料金表から差し込むことがそれに当たります。保護者に伝える数字は、AIの文をそのまま使いません。
始める順番は、毎月の量が多く、間違えても直せる仕事から決める
4つのうち、どれから始めるかは、次の基準で決めます。
- 毎月の量が多いか:生徒の数だけある仕事ほど、浮く時間が大きい
- 間違えても直せるか:保護者に出す前に、講師が確かめて直せる仕事から
- 材料がそろっているか:講師のメモ、小テストの点、料金表など、AIに渡すものがすでにあるか
- 講師が面倒だと感じているか:面倒な仕事ほど、使ってもらえる
多くの塾では、保護者への学習報告と、小テストと類題づくりが始めやすい仕事です。報告は、授業のあとに講師が一言のメモを残す習慣を先に作ります。
費用は、法人向けプランの月数千円から始められる
最初は、AIのチャットの画面に、講師のメモと点数の表を渡して使うだけで試せます。費用は、入力した内容をAIの学習に使わない法人向けプランの利用料で、1人あたり月数千円です。まずは教室長の分だけで十分です。
講師のメモと点数の表から、毎月の初めに全員分の報告の下書きを自動で作る、といった仕組みにする場合は、作る費用が加わります。費用の考え方は、AI導入にいくらかかる?月数千円から試せて、元が取れるかも先に分かるにまとめています。
生徒の名前や成績、家庭の事情は、子どもの大事な個人情報です。どの情報をAIに入れてよいかを先に決め、社内ルールに書いておきます。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています。報告の下書きを作るときは、生徒の名前を記号に置きかえてから渡す方法もあります。
効果は、続ける生徒の割合と、講師の授業以外の時間で測る
業務ごとに、次の数字を始める前と後で比べます。
| 業務 | 測る数字 |
|---|---|
| 保護者への学習報告 | 毎月報告を届けられた生徒の割合、1人の報告にかかる時間 |
| 問い合わせと体験授業の返事 | 返事までの時間、体験授業から入塾した割合 |
| 面談の準備 | 1人の準備にかかる時間 |
| 小テストと類題づくり | 1セットの準備にかかる時間、講師が直した問題の数 |
| 全体 | 続ける生徒の割合(月ごとの退塾の数)、紹介での入塾の数、講師の授業以外の時間 |
いちばん大事なのは、「続ける生徒の割合」と「紹介での入塾の数」です。子どもの数が減る中では、今いる生徒と保護者に選ばれ続けることが、塾の売上を守ります。
最初の1か月は、保護者への報告と類題づくりだけ試す
- 教室長の分の法人向けプランを用意する。生徒の情報の扱いを決める
- 1週目から、講師に授業のあとの一言のメモを残してもらう
- 2週目は、類題の下書きをAIに作らせ、講師が解いて確かめてから使う
- 月末に、10人分の保護者への報告を、メモと点数の表からAIに下書きさせ、講師が直して送る
- 1か月の終わりに、報告と類題にかかった時間を、始める前と比べる。効果があれば、塾の書き方をスキルにまとめ、全員分の報告と問い合わせの返事に広げる
まとめ
- 小さな学習塾では、保護者への学習報告、問い合わせと体験授業の返事、面談の準備、小テストと類題づくりの4つでAIが効く。仮に生徒80人の塾なら、月に約35時間が講師と教室長の手に戻る
- 2025年に生まれた日本人の子どもは67万1,236人で過去最少。今いる生徒に続けてもらい、紹介してもらうことの重みが増している
- 点数、出欠、料金は表と計算で持ち、AIにはその数字をもとにした言葉だけを書かせる。講師のメモにないことは書かせない
- 類題は講師が解いて確かめてから出す。成績の予測と志望校の判定は後回しにする
- 最初の1か月は、保護者への報告と類題づくりだけを試す