経営課題×AI

50人未満もストレスチェックが義務に。準備の書類と職場の改善をAIで

この記事で変わる経営指標

この記事では、社員50人未満の会社が、2028年4月から義務になるストレスチェックに慌てずに備える方法を説明します。一言でいうと、ストレスチェックそのものと、社員一人ひとりの結果は、外部の実施機関に任せる。会社は、国のマニュアルに沿って方針と社内ルールを決め、社員に安心して受けてもらい、職場の改善に取り組む。AIは、その準備の書類、社員への案内、委託先の提案の比べ方、職場の改善の話し合いの準備を下書きするという話です。

AIの価値は、社員の心の状態を調べることではありません。義務になる仕組みを、少ない手間で正しく整え、社員が辞めずに働き続けられる職場づくりに時間を回すことです。社員の個人の結果は、AIにも会社にも渡りません。

経営への効果は、人を失わず、準備の手間が減ること

ストレスチェックへの備えは、AIを使うと次のように変わります。

今まで 準備の下書きはAIで
方針と社内ルール 何から書けばよいか分からない マニュアルの見本から自社用を下書き
社員への案内 「会社に結果が知られる」と不安が残る 結果の扱いを分かる言葉で説明
委託先の選び方 料金の違いが分からない 提案を同じ項目の表で比べる
職場の改善 結果を受け取って終わり 話し合いの進め方と打ち手の候補を準備
毎年の実施 担当者の記憶に頼る 年間の予定と書類の型が残る
ストレスチェックへの備えの変化。今までは何から書けばよいか分からず、社員の不安も残り、結果を受け取って終わりになりがちだった。ストレスチェックと個人の結果は外部の実施機関が扱い、AIがマニュアルの見本から方針と社内ルール、社員への案内、委託先の比べ方、職場の改善の準備を下書きし、決めることと話し合いは社長と社員が行う
ストレスチェックへの備えの変化。今までは何から書けばよいか分からず、社員の不安も残り、結果を受け取って終わりになりがちだった。ストレスチェックと個人の結果は外部の実施機関が扱い、AIがマニュアルの見本から方針と社内ルール、社員への案内、委託先の比べ方、職場の改善の準備を下書きし、決めることと話し合いは社長と社員が行う

経営の効果は2つあります。

  • 人を失わない。 厚生労働省のマニュアルは、制度の目的を、心の不調の「未然防止」だとしています。小さな会社で一人が長く休んだり辞めたりすると、仕事が止まり、採用と育成の費用がかかります。職場のストレスの原因を早く減らすことは、人手を守ることです
  • 準備の手間が減る。 方針、社内ルール、社員への案内、委託先の比べ方は、どの会社でも同じ型で作れます。国のマニュアルに見本があるので、AIで自社用に下書きすれば、担当者が一から書く時間が減ります

2028年4月から、50人未満も年1回の実施が義務に

ストレスチェックは、2015年から、社員50人以上の事業場に義務付けられてきました。50人未満の事業場は「当分の間、努力義務」でした。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法で、50人未満の事業場にも義務が広がり、施行期日は2028年(令和10年)4月1日に決まりました(徳島労働局、厚生労働省のスタートガイド、労務ドットコム、かいけつ!人事労務の解説による)。

厚生労働省は2026年2月に「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」を公表しています。そのスタートガイドの要点は次のとおりです。

項目 マニュアルの考え方
実施の回数 1年ごとに1回
実施の体制 社員のプライバシーを守るため、原則として外部の機関に任せることを推奨
個人の結果 実施者(医師、保健師など)から本人に直接届き、会社には提供されない
高ストレスの社員 本人が申し出れば、医師の面接指導を受けられる。会社は医師の意見を聞いて必要な措置をとる
集団分析と職場の改善 努力義務。集計・分析の単位が10人を下回る場合は、個人が特定されるおそれがあるため、原則として行わない
準備 方針の表明、社員の意見を聴くこと、社内ルール(規程)の作成と周知。マニュアルに見本がある

集団分析を10人を下回る単位で行わないことは、厚生労働省の集団分析のリーフレットにも書かれ、労働新聞も分析の対象人数は10人以上と伝えています。集団分析を個人が特定できない方法で行うことは、2026年6月に公布された省令で規則にも書き込まれました(2027年4月施行。かいけつ!人事労務の解説による)。

医師の面接指導は、厚生労働省が設置する地域産業保健センターで、小規模事業場向けに無料で受けられると案内されています。細かい条件や手続きは、厚生労働省の最新の資料と、都道府県の産業保健総合支援センターで確かめてください。2026年10月時点の情報です。

小さな会社ほど、担当者がいないまま期限が来る

ストレスチェックへの備えで、小さな会社が困るのは次の3つです。

  • 何から始めればよいか分からない。 方針、社内ルール、委託先の選定、社員への説明と、やることが多く、総務の専任がいない会社では手が止まります
  • 社員が安心して受けられない。 人数が少ないと、「結果が社長に知られるのでは」「正直に答えると不利になるのでは」と心配する社員が出ます。安心して受けてもらえなければ、正しい結果になりません
  • 受けて終わりになる。 結果を職場の改善につなげる方法が分からず、毎年、受けるだけになります

制度の中身はマニュアルに書かれているので、書類と説明は前もって作れます。ここは、AIで手伝いやすい仕事です。

結果は外部に任せ、AIは準備の書類と改善の準備を受け持つ

外部の機関に任せること。 調査票の配布と回収、個人の結果の通知と保存、高ストレスかどうかの判定は、委託先の実施者が行います。会社は、個人の結果を受け取りません。

人がすること(最初に)。 社長が、厚生労働省のマニュアルとスタートガイドを読み、実施の担当者(委託先との連絡役)を決めます。マニュアルの見本(方針の表明、社内ルール)を手元に置きます。

AIに頼むこと。 次のものを下書きしてもらいます。

  • 方針の表明と社内ルール:マニュアルの見本と、自社の名前、人数、担当者、委託先の予定だけを渡し、自社用に書き直してもらう
  • 社員への案内:何のために行うか、個人の結果は会社に届かないこと、受けたことや結果で不利な扱いをしないこと、相談先を、A4で1枚、分かりやすい言葉で
  • 委託先の比べ方:複数の委託先の提案書(サービスの説明書)を渡し、マニュアルのチェックポイントに沿って、標準のサービス、別料金のもの、面接指導の扱い、料金を同じ項目の表にしてもらう
  • 職場の改善の準備:委託先から受け取った集団分析の結果(10人以上の集団のもの)から、話し合いで聞くことと、打ち手の候補を下書きしてもらう

人がすること(そのあと)。 社長が、社内ルールと委託先を決め、社員の意見を聴きます。社内ルールは社会保険労務士に確かめてもらいます。職場の改善は、社員と話し合って決めます。

AIへの頼み方と、返ってくる案内はこんな形になる

AIに渡す指示(見本。内容は架空です):

下は、厚生労働省の小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアルの要点と、当社の実施体制(社員○人、実施の担当者、委託先の予定)です。社員向けの案内を、A4で1枚、分かりやすい言葉で下書きしてください。個人の結果は会社に届かないこと、受けたことや結果を理由に不利な扱いをしないこと、相談先を必ず書いてください。要点にないことは書かず、心の病気の説明や診断にあたることは書かないでください。

返ってくる案内(見本の一部):

ストレスチェックを行います

  • 目的は、働く人のストレスへの気付きと、働きやすい職場づくりです
  • 回答は、外部の○○(委託先)が受け取ります。あなたの結果は、あなたにだけ届きます。会社には届きません
  • 受けたことや結果を理由に、不利な扱いをすることはありません
  • 結果について相談したいときは、○○(委託先)か、厚生労働省の「こころの耳」の相談窓口を使えます

社長は、マニュアルと照らして中身を確かめ、委託先の名前と日程を入れて配ります。

個人の結果はAIの外に置き、書類の型はスキルにする

ここまでの使い方は、そのつどAIのチャットに頼む場合です。毎年続けるなら、もう一段の工夫をしておくと安定します。作る側から見ると、ここが「AIを使う」と「使いこなす」の差です。

書類の型を Skills にまとめる。 Skills(スキル)は、AIに渡す手順書・見本・道具を1つにまとめたものです。頼まれた内容に合うときにAIが自動で読み込むので、毎回同じ説明をしなくても、AIの働きが安定します。ここでは、「方針と社内ルールの型(マニュアルの見本をもとに自社用にしたもの)」「社員への案内の型」「委託先を比べる表の型」「職場の改善の話し合いの型」「書いてはいけないこと(心の病気の診断にあたること、個人を推しはかる言い方、受けないことへの不利益をにおわせる言い方、マニュアルにないこと)」をスキルにします。

個人の結果は、AIの外に置く。 AIそのもの以外の、指示・道具・点検の仕組みを設計することを、ハーネスエンジニアリングと呼ぶことがあります。ここでは、ストレスチェックの実施と個人の結果を外部の機関で完結させること、AIに渡すのはマニュアルの要点と、10人以上の集団の集計結果だけにすること、年間の予定を表で持つことがそれに当たります。個人の結果や、誰が面接指導を申し出たかは、そもそも会社が持たないものです。AIにも渡しません。

明日からは、国のスタートガイドを読み、担当者を決める

  1. 厚生労働省の「労働者数50人未満の小規模事業者の方」のページから、マニュアルとスタートガイドを手に入れて読む
  2. 委託先との連絡役になる担当者を決める。マニュアルは、衛生推進者などを選ぶことが望ましいとしています
  3. 会社で契約した、入力をAIの学習に使わないプランに、マニュアルの見本と自社の体制を渡し、方針の表明と社内ルールを下書きさせる。社会保険労務士に確かめてもらう
  4. 委託先の候補を2〜3社選び、提案書をもらって、AIに同じ項目の表にさせる。面接指導を地域産業保健センターに頼めるかも確かめる。比べる項目の決め方と、記載のない項目の確かめ方は、ストレスチェックの委託先を同じ物差しで比べる。提案書の表はAIでで説明しています
  5. 上の見本の指示で社員への案内を下書きさせ、社員の意見を聴いてから、実施の時期を決める

本格的にやるなら、毎年の予定と職場の改善を仕組みにする

一度できたら、次の形に育てます。

個人の結果と、心の不調の判断はAIに任せない

  • 個人の結果を集めない。 会社は個人の結果を受け取りません。本人の同意なく結果を求めたり、受けたかどうかで扱いを変えたりしません
  • 心の不調の判断をしない。 AIにも、社長にも、社員の心の状態を推しはかる文章を書かせません。高ストレスの社員への対応は、医師の面接指導と意見に沿って行います
  • 社内ルールは専門家と確かめる。 規程や手続きは、労働安全衛生法と厚生労働省のマニュアルにかかわります。社会保険労務士や、産業保健総合支援センターに確かめます
  • 少人数の集団分析を求めない。 10人を下回る単位の結果は、原則として受け取りません
  • 社員の情報に気をつける。 社員の健康にかかわる情報は、とても大事な個人の情報です。AIに渡すのはマニュアルの要点と、10人以上の集団の集計結果だけにします。決め方は社員が安心してAIを使える会社にする、A4で1枚の社内ルールにまとめています

まとめ

  • 2025年の改正労働安全衛生法で、社員50人未満の事業場もストレスチェックが義務になり、2028年4月1日に始まる
  • 厚生労働省のマニュアルは、年1回の実施、外部の機関への委託、個人の結果は会社に届かないこと、10人を下回る単位では集団分析を原則行わないことを示している
  • AIは、マニュアルの見本から方針と社内ルール、社員への案内、委託先を比べる表、職場の改善の話し合いの準備を下書きする
  • 個人の結果はAIにも会社にも渡さない。心の不調の判断は医師に任せる
  • 社内ルールは社会保険労務士に確かめ、職場の改善は社員と話し合って決める

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